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2022.06.24

2ツ星「ナベノイズム」エグゼクティブシェフ渡辺雄一郎氏が語る「身体と心に美味しい料理」【ウェルビーイングChefs】

シェフ/渡辺雄一郎

シェフ/渡辺雄一郎

2022年7月で開店6周年を迎えるミシュラン東京で2ツ星を獲得したフランス料理店「ナベノイズム(Nabeno-Ism)」。ここでエグゼクティブシェフCEOを務めるのが「ジョエル・ロブション」を始めとする数々の名店で経験を積んできた渡辺雄一郎氏です。「ジョエル・ロブション」では3ツ星を9年間維持し、数々の賞を受賞した一流シェフが考える、「身体と心に美味しい料理」とは何かを伺いました。(聞き手・酒井明子)

スカイツリーを望む隅田川沿いにあるナベノイズムのテラス席に立つ渡辺シェフ。

「美味しい!」を生むのは人、食材、道具に対するリスペクト

健康づくりの根本とも言われる"食"。美味しさは舌で感じるのはもちろん、心で感じることも大切だと考えられています。まず渡辺雄一郎シェフが教えてくれたのは、身体で感じる美味しさについてです。

「料理人の私が考える身体にとって美味しい料理は、味の美味しさはもちろんですが、それに加え安全性がきちんと確保されていること。きちんとした生産者さんが手塩にかけて作った無農薬や添加物不使用の食材は、調理していてもイメージ通りの味に仕上がります」
「実はメニューに使う雷おこしを探すため、以前にいくつか食べ比べをした経験があります。『これだ!』と思ったものは、やはり添加物不使用でした。自分の足と舌で食材を探すことが、正しいと思えた体験でしたね」

「また料理人の心が穏やかでないと、いい料理はできません。イライラしている、時間がないなど平常心でない状態だと、カットや味つけ、盛りつけが乱れ、美味しくなくなってしまいます。調理するときは穏やかな気持ちで、感謝と愛情を持って作ることが大事です」
「私がよくスタッフに言うのは"レストランのテーブルにいるのが、自分の家族だと思って作りなさい"ということ。誰しも自分の家族には、美味しい料理を食べてもらいたいですよね」

食べる人への愛を込め、一品一品をつくっていると語る。

道具は自分の手や目とつながっている

渡辺シェフが愛情を持って大切に接しているのは、食材だけではありません。自身が愛用している道具に対しても強くリスペクトしています。

「道具には料理と同じように、それを作った人の技術や想いなどが込められています。高価だから、量産品だからなどは関係ありません。そのため道具を雑に扱う料理人がいたら、私は許せないですね」
「私が20年以上愛用しているスパチュールは、いわば相棒。自分の神経がスパチュールまで伸びて入っていき、使っていると感覚が手に伝わってきます。包丁も同じです。先端に目がついているイメージで、ファイバースコープのように切っている物の内部まで見えるんです」

「野球のグローブは使うほど手に馴染み、自分のものになっていきますよね。調理器具も同じで使うほど愛着がわき、手に馴染むようになる。それが料理にも伝わります。そのためには普段からきちんと手入れをしておくことも大切です」

調理中の渡辺シェフの左手には愛用のスパチュールが。

「愛着を持って使えば道具は自分の指先や目となります」

最後に味を決めるのは愛があるかどうか

食材、道具、人への思いなどを大切にしながら、料理をつくる渡辺シェフ。心に美味しい料理について聞くと、師匠であるジョエル・ロブション氏から多大な影響を受けていました。
「私の師匠のジョエル・ロブション氏が好きな言葉に、"convivialite(コンヴィヴィアリテ)"というフランス語があります。私もサインに必ず添えているのですが、 "食卓の懇親性"という意味を総称した言葉です。食卓の懇親性、つまり楽しい人や雰囲気の中で食事をすることが、心から美味しいと思うためには重要ということです。会話もポジティブな言葉が、より料理を美味しくすると思いますね」

ジョエル・ロブション氏には他にも、「ワタナベ、君はいい職業を選んだね。料理とは、一番愛を込められる行為。口に入るものだから責任もあるけれど、その分、愛情も込めることができる」という言葉をかけてもらい、印象に残っているそうです。
渡辺シェフ自身も以前、「味を最後に決めるのは、作り手に愛があるか、どうか」と述べていました。

「人々が健康的な食生活を送るためには、安全な食材を使い正しい調理法で作ることが大事。正しい調理法とは、例えば食材に対して美味しく感じる塩分比率や、食材に適した調理温度など。そうしたコツを知っているとより美味しく健康的になるでしょう」
「でも美味しくするために最も大切なことは、心を込めること。どんなにいい食材や素晴らしい調理法で作っても、愛情がなければ絶対に美味しくはなりません。私も食べてもらう人のことを考えながら、素材の味が最大限に引き出されるように調理をしています。人や食材、道具などはつながっていて、料理に関連するもの、すべてに感謝しています」

渡辺シェフが手にするのは2020年に出版された「ナベノイズム 渡辺雄一郎のフランス料理(旭屋出版)」。16年のオープンから4年間のメニューが紹介されており、巻末には詳細レシピも。

シェフの心身をリセットする東西の名店

いつもはお客様に料理を提供する側の渡辺シェフにも、身体や心に染みる心身をリセットできる料理があるそうです。
「ひとつは京都にある日本料理店『草喰なかひがし』です。ここで食べることができるのは、ご主人自らが野山で採ってきた野草や、炊きたてのご飯、めざしなど。料理の美味しさはもちろん、ご主人の心意気、八寸を提供時の姿勢にハッとさせられます。行くたびに心身が浄化されるような気持ちです。それと東京の両国にある『江戸蕎麦ほそ川』も、心をリセットしたいときに行く店のひとつ。蕎麦が非常に美しく、食欲を満たすためではなく、旨味、職人魂を味わいに訪れています」
ご自身も美味しい食事で心身をリセットすることが、渡辺シェフの愛のある料理をつくることにつながっているのかもしれません。

Text:Akiko Sakai Photos:Miyabi Tanaka, Nabeno-Ism

レストランデータ

店名/ナベノイズム(Nabeno-Ism 公式サイト
住所/東京都台東区駒形2-1-17
Tel/03-5246-4056
営業時間/ランチ・12:00~15:00クローズ 、ディナー・18:00~22:00クローズ
定休日/月曜日、他不定休あり(要問い合わせ)
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シェフ/渡辺雄一郎

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渡辺雄一郎

ナベノイズム・エグゼクティブシェフCEO。1967年、千葉県出身。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、同校フランス校シャトー・ド・レクレールに進学。同年秋よりミシュランの2ツ星 クーシュヴェル、サントロペ「ル・シャビシュー」「ラプロポ」にて研修。1988年東京『ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー』でキャリアをスタート。数々の修行を経て、2004年12月よりシャトーレストラン『ジョエル・ロブション』エグゼクティブシェフに就任。2007年ミシュ ラン東京で3ツ星に、2015年まで9年連続で3ツ星を維持。2016年7月7日、『レストランNabeno-Ismナベノイズム』を開業。現在、ミシュラン2ツ星、ゴーミヨ17点4トック。辻調グループ校友会コンピトゥム副会長、クラブアトラス副会長、トックブランシュ東日本地区委員、クラブドュタスキドール理事。第12回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。

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