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2022.07.15

「旬の鮎」をフランス料理の技法と下町へのリスペクトでアレンジ。「ナベノイズム」渡辺雄一郎シェフ、夏の一皿【ウェルビーイングChefs】

シェフ/渡辺雄一郎

シェフ/渡辺雄一郎

2022年7月に開店から6周年になる、ミシュラン東京で2ツ星を獲得したフランス料理店「ナベノイズム」。ジョエル・ロブションなど数々の名店で実績を残す渡辺雄一郎氏がエグゼクティブシェフCEOを務めています。渡辺シェフが「ナベノイズム」で提供する春夏秋冬、それぞれのコースには、看板となる一皿があります。とっておきの夏の一皿に渡辺シェフが込めた思いとは?(聞き手・酒井明子)

春夏秋冬の"必殺技"になるメニュー

レシピの発祥や食材への思いを語るにつれ、シェフの語り口は熱くなる。

「お客様がいなければレストランは成立しない」と語る渡辺シェフは、そのためにもお客様が季節ごとに楽しみにしてくれる、"必殺技"のような料理が必要だと考えています。

フランス料理店「ナベノイズム」のメニューはコースのみ。そこで提供される夏の必殺技、すなわちおすすめの一皿が、「和歌山の清流からの鮎を米粉焼きと7年熟成パテ シャルトリューズを香らせて、すいかとコンコンブルのルーロー ミント風味と馬込半白胡瓜と水茄子のマリネ、冷たいソースオゼイユを添えて」です。
「例えばプロレスで決め技が出なかったり、歌舞伎で役者さんが見得を切らなかったら、せっかく見に行ったのに……とがっかりしますよね。レストランも同じです。お客様にしっかりと楽しんでもらうために、当店では春夏秋冬ごとに旬の食材を使用した、"必殺技"となる料理を用意しているんです」
「夏の食材は鮎です。お客様が夏になると何を食べたくなるのかを考えて選んだ食材で、開業当時につくったメニューです。私の中で鮎は塩焼きが最高峰だと思っています。あの料理に敵うものはなかなかないと諦めています。その上で、鮎を私の持つフランス料理の技法でどこまで最高峰の味に近づけられるか挑戦したのが、このメニューです」
鮎は和歌山の紀の川支流で育てられた半天然を使用。天然だけでは味や品質が安定しないため、あえて半天然を選んでいます。その鮎を3枚におろして調理します。

「焼き魚はそのまま丸で1匹焼くと、外はパリッと内側は蒸し焼きになりますよね。それをイメージして、身の面を焼くのは一瞬、あとは皮面を鉄板につけて焼きます。皮の良いコンディションを維持するため、焼き時間は250℃で2分というスピード勝負なんです。熱とそのスピードに耐えられ、風味がよく食欲をそそる米粉を鮎にまぶしています」

焼き時間は250℃で2分というスピード勝負。

決め手は下町発祥のオリジナルスパイス

素材の良さを最大限にいかすために塩の量などにも細心の注意を払います。そして仕上げに渡辺シェフがかけたスパイスは、自らが七味唐辛子の製造販売で有名な「やげん堀」でオーダーしたものです。

「やげん堀さんではオリジナルの七味を調合してくれるので、6年前にお店を始める前に訪れて『申し訳ありませんが、私の言う通りに作っていただけますか』とお願いして、こうオーダーしたんです。『山椒3、陳皮(ちんぴ)1、ケシの実を1、そして、あとはそちらと、あちらを』と。七味では入れて当然の唐辛子を一切入れなかったので、お店の方は驚かれた様子でした」
「それで、今度、浅草駒形でフランス料理屋を開業する旨と、そこでの料理にこの調味料を使いたいと伝えると快く引き受けていただきました。以来、調合はずっと変えずに使い続けています」
見た目も美しいお皿の端に添えてあるハートの形のソースは、オゼイユ(酸葉)という酸っぱい葉っぱでつくったものです。

「オゼイユ(酸葉)のソースは本来、温かいクリームソースと混ぜて、鮭と合わせるものです。それをあえて冷たいソースで表現しました。川魚に対する私なりのアプローチです」

浅草駒形らしい継ぎ足しの文化を応用

主役の鮎とともに中央で存在感を示す鮎のパテとハート型に添えられたオゼイユ(酸葉)のソース。

また驚きなのがプレートの中央に絞られた鮎のパテです。これはツグミという鳥をまるごとすり潰してパテにする、フランス料理の技法が用いられています。鮎は頭から内臓、骨までまるごと味わうことできるため、同じ要領ですり潰して作っているそうです。しかも、ナベノイズムのパテは開業以来、継ぎ足しながら受け継がれているのです。
「鮎の時期が終わると、残ったパテを次の夏まで真空パックし、殺菌して冷凍保存します。そして次の年の最初に作ったパテに混ぜ込むんです。つまり継ぎ足して、継ぎ足して、今年で7年目です。年々味に深みが増して、他では出せない味だと思っています。開業以来、育ててきたうちだけの味ですからね」

「浅草駒形など下町には鰻のタレなど、何年も何年も継ぎ足して育てていく食文化が根づいています。私は地元の食文化をリスペクトしており、自分も育てる味を作ってみたいと思ったのが鮎のパテを始めたきっかけでした」
「せっかくだから出来立てをどうぞ」と、渡辺シェフに言われ、実際にいただいてみました。階段状に美しく、そして食べやすく盛られた鮎にパテとオゼイユ(酸葉)のソースをつけ、口の中へ……。川魚特有の臭みはまったくなく、パテをつけることで鮎の濃厚さがプラスされました。ソースの酸味が、これなしでは成立しないくらい絶妙なアクセントになっています。
お口直しにと添えられたのはナスなど旬の野菜と、鮎が分類される"キュウリウオ目"にかけた、キュウリですいかを巻いたすいかのルーローです。

厨房では実にオープンに、完成前の食材も見せていただいた。すいかのルーローはスライスしたキュウリにミントの葉、コルニッション(小きゅうり)の薄切りを乗せたものですいかを巻く。鮎との相性は抜群。

鮎というフランスにはいない川魚で始めた夏の料理。今では毎年、「今年の鮎はもう始まった?」という声も多いそうです。渡辺シェフが編み出した"必殺技"にはたくさんのファンがついています。

Text:Akiko Sakai Photos:Miyabi Tanaka, Nabeno-Ism

「季節ごとにお客様には旬をいかしたフランス料理を存分に味わっていただきたい」とシェフ。

レストランデータ

店名/ナベノイズム(Nabeno-Ism 公式サイト
住所/東京都台東区駒形2-1-17
Tel/03-5246-4056
営業時間/ランチ・12:00~15:00クローズ 、ディナー・18:00~22:00クローズ
定休日/月曜日、他不定休あり(要問い合わせ)
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シェフ/渡辺雄一郎

シェフ

渡辺雄一郎

ナベノイズム・エグゼクティブシェフCEO。1967年、千葉県出身。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、同校フランス校シャトー・ド・レクレールに進学。同年秋よりミシュランの2ツ星 クーシュヴェル、サントロペ「ル・シャビシュー」「ラプロポ」にて研修。1988年東京『ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー』でキャリアをスタート。数々の修行を経て、2004年12月よりシャトーレストラン『ジョエル・ロブション』エグゼクティブシェフに就任。2007年ミシュ ラン東京で3ツ星に、2015年まで9年連続で3ツ星を維持。2016年7月7日、『レストランNabeno-Ismナベノイズム』を開業。現在、ミシュラン2ツ星、ゴーミヨ17点4トック。辻調グループ校友会コンピトゥム副会長、クラブアトラス副会長、トックブランシュ東日本地区委員、クラブドュタスキドール理事。第12回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。

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