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2022.08.12

「スタッフの心身の健康を何より優先」。鉄人・坂井宏行シェフの店、そして人の育て方

シェフ/坂井宏行

シェフ/坂井宏行

日本のフランス料理の第一人者として知られるシェフ・坂井宏行氏が、1980年に南青山にオープンしたのがフレンチレストラン「ラ・ロシェル」です。1990年代からレストラン・ウェディングを行うなど、料理人としてだけでなく、経営者の面からも店を育ててきました。現在もレストラン監修を行うなど、さまざまな顔を持つ坂井シェフが語る、店を育てていくために大切なことは。(聞き手・酒井明子)

料理人、そして経営者でもある坂井宏行シェフが持つ人の育て方について話を伺った。

何よりも優先するのはスタッフとその家族のこと

オーナーシェフを務める坂井宏行氏が、1980年に南青山に作った高級フレンチレストラン「ラ・ロシェル」は敷地内に教会が併設されており、レストラン・ウェディングも人気です。坂井シェフは料理人としてはもちろん、経営者の視点からも店を育て、現在は東京・南青山と山王、福岡に3店舗を構えています。

それ以外にも2021年には、「ラ・グランド・メゾン Hiroyuki SAKAI」を東京・神宮前にオープン。料理人生の集大成と位置づけたこちらでは、監修という形で店に携わっています。

90年代、レストランウェディングのパイオニアとなったラ・ロシェル。多くの新郎新婦の門出を祝ってきた。

さまざまな顔を持つ坂井シェフですが、店を育てる上で最も大切にしているのが“チームワーク”です。

「レストランではよく、“お客様が第一、神様”と言いますが、私はそうではありません。一番大切なのはレストランで働くスタッフ。次にその家族で、三番目にお客様です。スタッフと家族を大切にできず、笑顔で楽しく働けていないと、それがお客様に伝わってしまい楽しんでもらえません。そのためスタッフには、『君たちが一番大切』『自分の家族のことを大事にしろ』といつも伝えています。心に余裕がないといい料理は作れません。仕事に自分の100%を出す必要はなく、80%でいい。あとの20%は家族やプライベートのために使ってほしいですね」

坂井シェフいわく、料理の美味しさには方程式があるわけではないので、味はどの店でも大差はない。そこで働いている人が心身ともに健康であり、きちんとした立ち姿、良好な関係性を見せることが、お客様の美味しさや満足につながると考えています。

そのため調理場でも、荒い言葉を使うのは許せないそう。相手が不信感を抱くだけなので、そのようなときはしっかりと指導をするそうです。

ムッシュのいるところに自然と笑顔あり。

見えない“裏”の部分こそ大切に

坂井シェフが店で大切にしているのが、ふだんは見えない“裏”の部分です。料理人の戦場であるキッチンも、“裏”のひとつ。南青山の「ラ・ロシェル」のキッチンは、無機質なステンレス空間ではなく、タイルを施したカラフルで過ごしやい雰囲気です。

坂井シェフいわく、良いレストランというは「お客様が過ごすフロアだけがキレイではダメ。裏にあるキッチンこそキレイにしておくことが大切で、汚れているなんて論外」だそうです。汚い状態が日常的になってしまうと、ゴミが落ちていても気にならなくなってしまいます。
「私のレストランでは、いつお客様をキッチンに入れても恥ずかしくない状態にしています。レストランウェディングの下見に来た新郎様、新婦様には、キッチンも見てもらいます。そうすることで、ここで作られる料理なら安心だと思ってもらいます。キッチンがきちんと整理されていれば、調理の際のスピードや段取りもグッと良くなります。お客様にベストなタイミングで料理を提供することにもつながるのです」

また坂井シェフのこの考えは、キレイなキッチンはそこで働くスタッフたちの健康にもつながるということでしょう。そういえばラ・ロシェルのキッチンの床は固いコンクリートではなく、柔らかいマットが敷いてありました。「ちょっとでも柔らかい方が働く人に優しいでしょ」と、そんなところにもスタッフに対する気遣いが伺えました。

こんな優しい坂井シェフですが、 “裏方”である料理人の服装には厳しく、キレイなコックコートで働くことを徹底しています。「もし汚いコックコートで料理を作っていたら、お客様の前に出たときに不信感を与えてしまいます。常に見られていることを意識してほしい」と伝えているそうです。

「いつお客様の前に出ても恥ずかしくないように」とコックコートにはシミひとつない。

愛弟子の抜き打ちチェックをすることも

2021年にオープンした「ラ・グランド・メゾン Hiroyuki SAKAI」では現在、南青山の「ラ・ロシェル」で愛弟子として長年スーシェフを務めた方がシェフを務めています。監修として携わる坂井シェフは、“任せて好きなようにやらせる”がモットーだそうです。

「料理のベースはすでに南青山で何年も学んでいて、言うことはありません。そこに彼らしいエッセンスをプラスすればいいんです。レストランのNo.2シェフは、上が辞めなければトップになれません。彼らをトップにするために、店を増やすことも大切ですね」

ときには抜き打ちで厨房や冷蔵庫のチェックをすることも。

現在は南青山の「ラ・ロシェル」をはじめ、店は愛弟子たちにある程度任せてはいるものの、坂井シェフがよく行うのが抜き打ちチェックです。

自身がオーナーのレストランでは、休みの日に冷蔵庫の抜き打ちチェックをすることも。冷蔵庫の中が片付いていない、余った食材がある場合は、写真を撮って理由を聞くそうです。食材をコントロールすることは基本なので、それができていない場合は注意をします。

また、愛弟子のレストランへの突然の訪問もしばしば。いわゆる抜き打ちチェックです。

「突然訪ねて料理を注文しますが、その際は客としてきちんと代金も支払います。そうすることでスタッフもきちんと客として接してくれて、他と変わらない料理を提供してくれます。その結果、思ったことはきちんと伝えるようにしています」
抜き打ちという厳しい面もあるが、これまで貫いてきたそうした姿勢を変わることなく100人近いスタッフに今でも見せ続けています。“ムッシュはいつも笑顔&元気でいる”ため、スタッフ間に壁はなく、みんなが自然体で接している姿が取材中も見えました。スタッフの心身の健康を何よりも優先し、気配りしてきたムッシュだからこその絆だと言えるでしょう。

今後の夢は育てたシェフたちが活躍できる店を、もう1軒出すこと。彼らの新たな居場所を作りたいそうです。

Text/Akiko Sakai Photos/Kazuya Furaku

ムッシュのジョークを合図に笑顔があふれる。「心身ともに健康に働く」が坂井シェフのモットー。

レストランデータ

店名/ラ・ロシェル南青山(公式サイト
住所/東京都港区南青山3-14-23
Tel/03-3478-5645
営業時間/ランチ・12:00~14:00(L.O.)、ディナー・18:00~20:30(L.O.)
定休日/月曜日、火曜日(祝日を除く)
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シェフ/坂井宏行

シェフ

坂井宏行

フレンチレストラン「ラ・ロシェル」オーナーシェフ。1942年、鹿児島県出身。17歳でフランス料理の修業を始め、19歳で単身オーストラリアに渡り1年半の修行の後、帰国。都内のレストランにて修業を経た後、1980年、38歳で独立し、フランス料理店「ラ・ロシェル」をオープン。1994年からテレビ番組「料理の鉄人」にフレンチの鉄人として出演し、「完全なる料理の鉄人」では最強鉄人になる。以来、日本のフランス料理の第一人者として幅広い分野で活躍を続け、2005年にはフランス共和国より『農事功労章シュヴァリエ勲章』を受勲。2021年文化振興の功績を認められ、文化庁長官勲章受賞。現在、国内外でのイベントや調理師学校にて特別講師をつとめ、後進指導育成に力を入れている。

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