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2022.08.03

膝痛治療最前線③ 変形性膝関節症の各治療法の詳細と注目される第三の選択肢(整形外科医師・佐藤敦)

整形外科医師/佐藤敦

整形外科医師/佐藤敦

「ドクターボイス~医療の現場から」では現場で働く医師から最新の医療について話を聞きます。今回は多くの人が加齢とともに悩む変形性膝関節症に対する各治療法の詳細と、近年注目を集める第三の選択肢について、多くの人の膝の痛みに対し「どうにかしたい」と膝痛治療に取り組む整形外科医師・佐藤敦ドクターに伺いました。(聞き手・前田成彦)

保存療法と手術療法。そのメリットとデメリット

変形性膝関節症には多くの治療法がありますが、大きく分けると「保存療法」と「手術療法」があります。まずは、それぞれの治療法のメリットとデメリットを紹介していきます。

保存療法とは、手術を行わない治療法の総称です。佐藤ドクターはこのように語ります。

「保存療法のうち、減量指導や膝や太ももなど周囲の筋力を上げる運動療法、サポーターやインソール、杖の使用、温熱療法や飲み薬や貼り薬の処方などは、変形性膝関節症の初期症状にそれなりの効果が見込めます。ただし症状が進行してくると、それだけで完治させるのは難しい。その場合、保存療法の選択肢の一つとしてヒアルロン酸や鎮痛剤の関節内注射が考えられます」

「ヒアルロン酸は関節液の主成分で、関節の動きを滑らかにする潤滑液であり、痛み自体を緩和させる作用も期待できます。初期の治療の場合は1~2週間に一度、合計5回ほど通院していただきます。そこで効果があれば、その後は2週間に一度、月に一度というように、一定のスパンで注射を続けます」

「入院の必要がないことはメリットですが、デメリットとしては、人によっては効果が出ない場合もあります。そして頻繁に通院する必要があることも負担になるでしょう。1~2週間に一度、通院し続けるのは、なかなか大変ですから」

こうした保存療法で痛みが引かない場合、視野に入るのが手術療法です。手術を行えば回復する可能性も高まりますが、そこにはデメリットもあります。

「そもそも変形性膝関節症の手術は内容にもよりますが、個人差はあるものの関節に内視鏡を入れる簡単な手術の場合でも、最短で2~3日は入院することになります。また骨切り術や人工関節を入れる場合は2週間から4週間の入院が必要です。手術は身体的にも時間的にも、多くの負担がかかります」

「また、何らかの合併症があったり、高齢で手術自体が受けられない方、他にもご家族の介護や子育てなど、環境要因で入院が難しい方も多くいらっしゃいます。何より、そもそも一般の方にとって手術というものは怖いものですよね。『手術』という言葉を聞くと、治療に二の足を踏んでしまう人が多いのも仕方がないことかもしれません」

保存療法と手術療法の間を埋める再生医療

実際に診察中の佐藤医師。「多くの人が抱える膝の痛みをなんとかしたい」と常に患者さんと向き合っている。

そんな佐藤ドクターをはじめ多くの整形外科医師が現在、変形性膝関節症の治療法における「第三の選択肢」として提案しているのが「再生医療」です。

「これまで変形性膝関節症の治療の流れは、まずヒアルロン酸や鎮痛剤の関節内注射に運動療法や理学療法を組み合わせる。それで治癒しない場合に骨切り術や人工関節を入れる手術を行う、というものでした」

「再生医療はその間を埋める治療法といえます。再生医療とは自分の体から取り出し培養した細胞を、患部に注射することで、傷ついた体の部位や臓器などの自己再生能力を活性化し、機能を回復させる治療法です。ポイントは、人間の身体が持つ自然治癒力を引き出すというところ。つまり患部の損傷度合いにもよりますが、手術を受けなくても変形性膝関節症を治癒できる可能性があります」

「ちなみに再生医療が日本でスタートしたのは、通称『再生医療法』が施行された2014年。まだまだ新しい治療法で、世界的に法整備がされている国が少ない中、日本は再生医療の先進国といわれています」

では、再生医療による治療法とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。治療法は大きく分けて二つ。血小板成分を用いる療法と、幹細胞を用いる療法があります。

「まず、血小板成分を用いた療法について説明します。血液の細胞成分から、血小板を多く含む成分を取り出した『PRP(多血小板血漿)』を関節内に注入。血小板に含まれる成長因子の働きを利用して、細胞の成長や増殖を促す、というものです。血小板成分を用いる療法もいくつかの種類があり、私が主に実施しているのが『PFC-FD療法』です。これは血小板を遠心分離によって濃縮し、脱細胞化後にフリーズドライ化した成長因子を関節内に注入します」

「そしてもうひとつ幹細胞を用いる治療法があります。これは脂肪由来幹細胞(ASC)を使うものが代表的で、患者さん自身から取り出した脂肪を使い、そこから培養した幹細胞を関節に注入。人間が本来持つ治癒力を引き出し、幹細胞の働きによって炎症を抑え、組織の修復を促すというものです」

さて、膝痛治療最前線の総まとめとなる次回は、再生医療による変形性膝関節症の治療の具体的な流れ、そして再生医療の今後と課題について、佐藤ドクターに詳しく掘り下げていただきます。
(この項つづく)
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整形外科医師/佐藤敦

整形外科医師

佐藤敦

整形外科医師。昭和大学医学部卒。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本医師会健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判断医、身体障害者福祉法第15条第1項指定医、臨床研修指導医の資格を持つ。東京2020ジャマイカメディカルサポートチームドクター。現在、昭和大学江東豊洲病院整形外科講師、ミライズクリニック南青山再生医療総監修医を務める。専門は膝関節、スポーツ医学。

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