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2022.08.17

膝痛治療最前線④ 変形性膝関節症、最新の治療法と早期治療の相乗効果(整形外科医師・佐藤敦)

整形外科医師/佐藤敦

整形外科医師/佐藤敦

「ドクターボイス~医療の現場から」では現場で働く医師から最新の医療について話を聞きます。今回は多くの人が加齢とともに悩む変形性膝関節症に対する治療法で第三の選択肢として注目を集める再生医療について、多くの人の膝の痛みに対し「どうにかしたい」と膝痛治療に取り組む整形外科医師・佐藤敦ドクターに伺いました。(聞き手・前田成彦)

佐藤ドクターが手掛ける二つの最新メソッド。

ここまで3回、膝の痛みの原因や変形性膝関節症の治療について佐藤ドクターに伺ってきました。従来、変形性膝関節症の治療の流れは、まずはヒアルロン酸や鎮痛剤の関節内注射と運動療法、理学療法の組み合わせ。これで治癒しない場合は骨切り術や人工関節を入れる手術を行う、というものでした。

これに加えて佐藤ドクターが「第三の選択肢」としているのが「再生医療」です。再生医療とは、従来の保存療法と手術療法の間を埋める、新たな位置づけの治療法です。

現在「ミライズクリニック南青山」が手がけている再生医療による治療法は主に二つ。血小板成分を用いる「PFC-FD療法」と、脂肪組織由来幹細胞を用いる「ASC療法」です。

「第3回でお伝えした通り、現在、多くの膝関節治療に用いられているのがPRP療法。患者さん自身の血液から血小板を多く含んだ成分を取り出したPRPを、傷ついた箇所に注入。血小板に含まれる成長因子の働きを利用して、細胞の成長や増殖を促すというものです。私どもが手がけるPFC-FD療法は、この中の一つのメソッドです。PRPを遠心分離による独自技術で濃縮させ、血小板を活性化。より多くの成長因子を取り出します」

「そして私達が手がけるもう一つの治療法がASC療法。患者さん自身の脂肪から取り出して培養した幹細胞を患部に注入することで人間本来の治癒力を引き出し、炎症を抑え、組織の修復を促します。幹細胞には骨や軟骨の他、筋細胞や血管新生に関わる細胞になる『多分化能』があり、欠損した組織を修復する働きを期待できます。ASC療法は、そこに着目した治療法です」
では、それぞれの治療は実際どのように進んでいくのでしょうか。

「PFC-FD療法の治療は大きく分けて①問診・診察→②採血→③注射の3ステップ。まずは関節の痛みや違和感の程度、これまで行ってきた治療などについてうかがい、治療法を判断。OKであれば血液を約50ml採取し、再生医療センターで検査、加工します。これには3週間ほどお時間をいただきます。そして、フリーズドライ化した血小板由来の成長因子を患部に注射します。入院の必要はありません」

「そしてASC療法は大きく分けて①問診・診察・検査→②脂肪採取→③脂肪幹細胞の抽出・培養→④脂肪幹細胞の投与の4ステップとなります。まずは問診・診察・検査を行い、治療法を判断。OKであれば脂肪を採取します。採取場所は主に腹部で、分量は20㏄ほど。主に腹部からですが、他の箇所から取っても構いません。そして脂肪から脂肪幹細胞を抽出し、6~8週間をかけて200~400倍に培養し、患部に直接注射します。こちらも入院の必要はありません」

「回復や効果については個人差がありますが、いずれの治療も効果を早めに感じられる方は1~3週間後ぐらいから痛みが引いた実感を覚えるといいます。全体としてはおおむね1~3カ月で自覚できるケースが多いです。一度治療を行うと、個人差はあるものの効果はおおむね半年から1年以上続きます。そして、その後は都度、痛みの状況に応じて治療を行っていきます」

「この二つの治療はどちらが効果が高いのか、ということについてはまだ積み上げてきたエビデンスが少なく、何とも言いにくいのですが、これまでの実績などから考えるとASC療法の方がより有効であると思います。そのため私どもではASC療法を積極的にお勧めしていますが、いずれも自由診療になりますので、具体的な症状の進み具合や費用などをよく考えた上で選択してほしいと思います」

「治療後は、いい状態をキープするためにも、治療と並行して筋力強化をしたり体重を減らしたり、歩き方を改善して負担がかからないようにするなど、運動療法も取り入れていくことをお勧めしています。私どもの病院はトレーニングジムを併設し、専門の理学療法士もおり、そういった体制を整えています」

今後の課題は「コストをいかに下げるか」

再生医療による治療法を選ぶ上で注意したいのが、それぞれのメリットとデメリットをよく考える必要がある、ということです。

「PFC-FD療法の場合は採血を行うだけなので、患者さんの負担はそれほど大きくはありません。そして、血小板をフリーズドライ化して半年ほどストックできるのが大きなメリット。特に、ケガの多いスポーツ選手などには有効だと思います。ただしその反面、B型肝炎やC型肝炎などの感染症をお持ちの場合、治療を行うことはできません。また血液の検査・加工に3週間ほどかかることも、デメリットといえるでしょう」

「そしてASC療法は自らの細胞を用いる治療法なので、薬でいう副作用がない。これは非常に大きなメリットです。ただし、お腹などから皮下脂肪を取ることが、患者さんにとって負担になる場合もあります。また皮下脂肪が少ない方の場合、脂肪を採取するのは大変。お腹から採取しにくい場合は、お尻から取ることもあります。また、脂肪を採取して6週間から8週間、幹細胞の培養を行う必要があることもデメリットになります」

そして、何より考慮せねばならないのが治療費。いずれも保険外治療なので高額です。

「PRP療法の費用は病院によって違いますが、おおむね10万円から30万円ぐらい。その中でPFC-FD療法は約20万円ぐらいです。そしてASC療法はだいたい150~200万円ぐらいかかります。PRP療法では患者さんの血液を採取するだけですが、ASC療法の場合は幹細胞を培養する作業が入ってくる。ここにどうしても大きな金額がかかってしまいますので、注意が必要です」

「再生医療の今後の課題は、コストをいかに下げるか。日本は保険治療がメインで、こういった高額医療が保険適用されるまでには時間がかかります。国の政策などさまざまな要素が絡む中で難しい面はありますが、保険内治療にしていくには、これらの再生医療が効果の高い安全な治療だという考えを確立させることが大事。そのためには我々が中心となって、エビデンスを蓄積していくことが必要になるでしょう」
そして佐藤ドクターは「大切なのは、まずは変形性膝関節症について理解を深めてもらうこと。そして何より、我慢しないこと」と語ります。

「膝が痛むのは年だから仕方ない。痛んでも我慢しよう。そう考えるのではなく、まず医師に相談してほしいと思います。PFC-FD療法もASC療法も、変形性膝関節症の症状が進行しないうちに行う方が効果が高いことはわかっています。『痛みが少ないうちは我慢して、年を取ってから手術すればいい』という選択も理解できます。ただ、初期にきちんとした治療をすれば、最終的に手術の必要がなくなる可能性も高い。そちらの方が、経済的にもメリットとなるでしょう。大切なのは、膝に少しでも痛みを感じた時には積極的に医師のアドバイスを仰ぐことです」

膝の痛みを感じた時に我慢するのではなく、まずは医師に相談する。そして再生医療を含めた質の高い治療法を選択し、痛みをしっかり取り、やりたいことを諦めずQOLを上げる。それが佐藤ドクターが目指すところです。「膝の痛みは年だから仕方ない」という理由で治療を諦めていた時代は、もはや過去のものとなりつつあるのです。(この項・完)
Text/Naruhiko Maeda
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整形外科医師/佐藤敦

整形外科医師

佐藤敦

整形外科医師。昭和大学医学部卒。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本医師会健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判断医、身体障害者福祉法第15条第1項指定医、臨床研修指導医の資格を持つ。東京2020ジャマイカメディカルサポートチームドクター。現在、昭和大学江東豊洲病院整形外科講師、ミライズクリニック南青山再生医療総監修医を務める。専門は膝関節、スポーツ医学。

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