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2022.09.14

VR(仮想現実)とメタバース(仮想空間)が変えた医療の現場、そして未来。~その②今に至るヒントを得た地方勤務

医師・医学博士/杉本真樹

医師・医学博士/杉本真樹

現在、VR(=Virtual reality:仮想現実)技術とメタバース(仮想空間)の医療への応用が進んでいます。VRとメタバースが医療の現場にどのように役立っているのか。そして将来、どういった形で日本の医療を変えていくのでしょうか。外科医であり、VRとメタバースを活用した医療情報システムを開発したHoloeyes株式会社の創業者でもある杉本真樹医師にお話をうかがっていきます。2回目の今回は源流ともいえる杉本医師とパソコンやIT、デジタルテクノロジーとの出会いについてです。(聞き手・前田成彦)

今回は仮想現実やメタバースの医療への応用へとつながる源流、ITと杉本医師の出会いについて伺った。

パソコンは何かを作り出す道具

杉本医師は1971年生まれ。家族や親族に医師はいませんでしたが、高校時代に外科医の道を志し、帝京大学医学部に進学しました。今ではVRやメタバースといったデジタルなキーワードとともにメディアに登場する杉本医師ですが、医学部を卒業する1996年まで、学生時代はパソコンとはほぼ縁のない生活だったといいます。

「小さい頃から新しいものには何でも興味はありましたが、でもコンピューター、パソコンはほぼ知らない世代でした」

そんな杉本医師がパソコンと出会ったのは研修医になってからです。大学卒業後、帝京大学医学部附属病院の肝胆膵(肝臓・胆道・膵臓)外科グループで研修医を務めた杉本医師は、そこでのことをこう振り返ります。

「医学部の学生だった時にはパソコンを使う機会はほとんどありませんでした。その後、研修医になると多くの先輩医師がマッキントッシュ(Mac)を使っていました。私も先輩に教わりながら触っているうちに自分のパソコンが欲しくなり、Macのノート型パソコン、パワーブックを買いました。研修医の給料からするととても高価な買い物だったことを覚えています」

帝京大学冲永総合研究所 Innovation Labに飾られたオールドMacに見守られながら、パソコンとの出会いを語る杉本医師。

杉本医師は続けます。

「自分のパソコンを買って、使っていくうちにいろいろなことができるようになりました。自分で書いたプログラムで簡単な動きができたりしたことで、『パソコンというのは素晴らしいな』と思いましたよ。自分の中でワープロは使うもので、パソコンというのは何かを作り出すものという位置づけでした。さらにパソコンがインターネットにつながるようになって、この端末は社会の入り口だと実感しました。自分が作ったものを公開したり、人から作ったものを共有してもらったりできる。インターネットを通じて現実以外にももうひとつの大きな世界や空間があるということは当時から感じていました」

非効率を解消しないと医療が成り立たない

杉本医師は研修後、帝京大学医学部附属病院などに勤務し、大学院を卒業、医学博士も取得した2004年、帝京大学附属市原病院(現・帝京大学ちば総合医療センター)に異動しました。千葉県市原市にあるここは、地域医療を支える大病院です。

ここで杉本医師は外科医として勤務しながら様々な経験をしました。地域の中小病院や診療所での外勤、夜間の救急当直、自ら車を運転して在宅診療や往診など。そうした中で痛感したのが都会と地方の医療設備や医療インフラの差でした。

「東京の大きな病院での経験しかなかった私にとっては驚くことばかりでした。患者さんは診療所や病院が近くになく、検査も気軽に受けられない。そのため病気の発見が遅れることもある。また医療設備が古く、非効率な医療によって医師たちがみんな疲弊していました。これを何とかしないと、そのうちに医療が成り立たなくなると思いました。地方の病院でもデジタルテクノロジーを使い、医療を効率化することができれば医師たちのやりがい、働きがいも向上するのではと考えたのです」

都会と地方の格差に驚きつつも、杉本医師は「このままではいけない…」と医療の効率化に着手した。

着手したのがCTやMRIの医用画像の3次元化でした。異動前、帝京大学医学部附属病院時代に杉本医師は医用画像を3次元化するIT技術と出会っており、そのときのことをこう振り返ります。

「見た瞬間に『これだ!』と思いました。平面ではなく立体視することで肝胆膵の位置関係を奥行きとともに把握することができました。何より患者さんの情報に息が吹き込まれたとでも言いましょうか、市民権を得たような気がしました。そこからITや仮想現実というものを意識し、ハマっていったんだと思います」
医用画像の処理には高性能で高価な画像処理システムが必要でしたが、2003年頃には市販のパソコンで動くオープンソースソフトウェア「OsiriX(オザイリクス)」が開発されました。これも予算の限られる地方の病院にとって追い風でした。

「高額な医療機器の導入は無理でも、こうした市販品を使った安価で誰でも使うことのできるシステムの導入やノートパソコンやタブレットを使った手術支援などを行い、効率化を図りました。医師たちは目を輝かせて『これは面白い』と興味を持つようになって、仕事に意欲的に取り組むようになりました。デジタルテクノロジーによる改革は私だけでなく、他の人も興味があり、影響力があるんだなと実感しました。『快適です』『患者さんの信頼も得られます』と評判も良く、疲弊していたはずが、やりがいに満ちた環境へと変化していったのです」

地方の病院勤務での経験が、のちのHoloeyes起業へとつながっていく。

この帝京大学附属市原病院時代、杉本医師は都会の病院との格差を埋めるために他にもデジタルテクノロジーを活用しました。携帯型音楽プレーヤーの液晶画面で医用画像を見られるようにしたり、ゲーム機のコントローラーも活用するなど、さまざまなアイディアを試しました。予算が潤沢ではない分、知恵を絞ったのです。これらの試みはその後、Holoeyesの起業へと結実していきます。

次回は起業に至るきっかけと出会い、そして杉本医師が掲げる「"医領"解放」という考えについて、お伝えしていきます。
(この項つづく)

Text/Naruhiko Maeda Photos/Kazuya Furaku
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医師・医学博士/杉本真樹

医師・医学博士

杉本真樹

帝京大学冲永総合研究所 Innovation Lab 教授。Holoeyes株式会社 代表取締役CEO 共同創業者。 1996年、帝京大学医学部卒。帝京大学 肝胆膵外科、国立病院東京医療センター外科、米国カリフォルニア州退役軍人局Palo Alto病院 客員フェロー、神戸大学大学院消化器内科 特務准教授、国際医療福祉大学大学院 准教授を経て現職。医用画像解析、XR (VR/AR/MR)、メタバース、手術支援、低侵襲手術、手術ロボット、3Dプリンタ臓器モデルなど、最先端医療技術の研究開発と医工産学官連携に従事。医療関連産業の集積による経済活性化、科学教育、若手人材育成を精力的に行っている。

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