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2022.10.04

VR(仮想現実)とメタバース(仮想空間)が変えた医療の現場、そして未来。~その③起業家医師が目指す「"医領"解放」

医師・医学博士/杉本真樹

医師・医学博士/杉本真樹

現在、VR(=Virtual reality:仮想現実)技術とメタバース(仮想空間)の医療への応用が進んでいます。VRとメタバースが医療の現場にどのように役立っているのか。そして将来、どういった形で日本の医療を変えていくのでしょうか。外科医であり、VRとメタバースを活用した医療情報システムを開発したHoloeyes株式会社の創業者でもある杉本真樹医師にお話をうかがう第3回目です。(聞き手・前田成彦)

杉本医師には今回、起業のきっかけなどをうかがった。

医師とエンジニアの出会い

杉本医師は2004年から2008年まで帝京大学附属市原病院(現・帝京大学ちば総合医療センター)に勤務し、その後、渡米しました。当地ではカリフォルニア州退役軍人局Palo Alto病院客員フェローとして、医療画像管理システムと教育システムの構築などに携わります。2009年に帰国し、神戸大学大学院消化器内科の特命講師(のちに特務准教授)として8年間、臨床、研究、研修医や大学院生の指導と並行して、臓器の3D画像を腹部に投影して行うプロジェクションマッピング手術に代表されるVR/AR技術の医療活用、臓器の3D画像を3Dプリンターで出力する立体造形技術の開発など、医工産学連携や起業支援などを行いました。
Holoeyes株式会社を共同創業する谷口直嗣氏と出会ったのは、2014年頃だったといいます。きっかけはSNSでした。

「当時、いろいろな企業と共同研究を行っていましたが、時間と予算がかかることもあるし、会社の方針でプロジェクトがなくなった経験もありました。そうしたことが何度かあると『医師でしかできない事業を、自分で起業しよう』と考えるようになりました。でも、起業には志を共有できる仲間が必要です。それでSNSで発信していたところ、谷口からメッセージが届いたんです」

「フリーランスのソフトウェアエンジニアだった彼は、私のインタビュー記事を見て医療情報のデジタル化に興味を持ち、私のSNSにアプローチしてくれたんです。『VRゴーグルでCT画像をVR化して手術に利用したい』と提案すると、興味を持ってくれたので、会うことになり、すぐにVRアプリを作ってくれました。ゴーグルを装着してそれを見たときに『これだな!』と思いましたよ」
余談ではありますが、筆者も今回、杉本医師の取材で帝京大学冲永総合研究所 Innovation Labを訪れた際、ゴーグルを装着し、VRアプリを初めて体験しました(下写真参照)。目の前に立体的でリアルな臓器が浮かんでいることに驚き、その臓器を動かしたり、拡大したりと自由自在な操作を体験しました。谷口氏と出会ったときの杉本医師も同じような気持ちだったんだろうな、と感じた次第です。

帝京大学冲永総合研究所 Innovation LabにてVRアプリを体験中の筆者。

話を戻しましょう。杉本医師は続けます。

「こうしたアプリを最初は自分のために、自分で使っていました。でも、そうすると同僚の医師たちが『それ、いくらなの?』と聞いてくるので、売る価値があるということはビジネスとして成り立つと思いました。そうした状況が続いて、やがてコンテスト(VRクリエイティブアワード)で賞を獲得したり、起業支援プロジェクトに採択されたこともあって、起業することにしたんです」

2016年10月、杉本医師と谷口氏は共同創業者としてHoloeyesを立ち上げました。現役外科医による医療ベンチャーの起業は大きな話題を呼びました。

ライフワークとしての「"医領"解放」

Holoeyesメンバー。中央の杉本医師(代表取締役兼CEO兼CMO)を挟み、右が谷口直嗣氏(取締役兼CTO)、左が取締役兼COO兼CSOの新城健一氏。

杉本医師がHoloeyesによって目指すものは何なのでしょうか。

「私は医療を良くしたい、そのために多忙な医師を助けたいと思っています。今、現場の医師は目の前の患者に100%の力を使っています。確かにそれは正しいことなのですが、でも非効率な医療を行っていては、無駄が多いかもしれません。だったら医療を効率化することで60%の力で治療ができれば、残った40%を別の患者さんに向けたり、若い医師を育てることにもつなげられます」

「例えば昔は手術中に出血することは当たり前で、その出血を早く止められる人がベテランとされてきました。でも出血の少ない手術をした方が良い。ただ昔は出血する箇所を事前に把握することが難しかったのです。VRなどで3D画像を見て、切開すれば出血する箇所、そうでない箇所を予め把握できれば、気をつけるべき部分は慎重に行い、『ここは切っても出血しない』とわかっている箇所は大胆で効率的に切開する。こうしたメリハリをつけることも効率化でしょう」
また「医療の世界にある壁を取り除きたいですね」と杉本医師。

「医療というのは皆さんの想像する以上に閉ざされた世界で、高度な医療機器、情報システム、医学知識、医療技術などは『聖域』として、一部の大規模医療施設や大学、企業に独占されている状態です。そして診療科、大学、施設などの間にも大小、さまざまな壁が存在します。この状態を変えないと、日本の医療は良くならないのではないかとずっと思っていました。そこで医療の領域、すなわち"医領"を解放する必要があると、私は考えたのです」

「地方の病院勤務時代、私は小児科や心臓外科など異なる科の手術にも多く入りました。そうすると『あの科ではこういう手術を行っていた』など、新しい発見がたくさんありました。自分だけの狭い世界では得られない情報に触れ、科という壁を超えて得たそうした知識や経験は患者さんのためにもなるし、自分が成長することにもつながる。そのことを自ら体験したわけです。今はわざわざ足を運ばなくてもVRやインターネットといったデジタルテクノロジーがあります。その技術を活用して知識やノウハウを共有し、医療の世界に存在する領域や壁、"医領"を解放することができれば、もっともっと医療が良くなり、より良い社会が広がるはずです」

さて、まとめとなる次回は、引き続き"医領"解放やHoloeyesで今後目指すことについて、お話を聞いていきます。
(この項つづく)

Text/Naruhiko Maeda Photos/Kazuya Furaku, Holoeyes
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医師・医学博士/杉本真樹

医師・医学博士

杉本真樹

帝京大学冲永総合研究所 Innovation Lab 教授。Holoeyes株式会社 代表取締役CEO 共同創業者。 1996年、帝京大学医学部卒。帝京大学 肝胆膵外科、国立病院東京医療センター外科、米国カリフォルニア州退役軍人局Palo Alto病院 客員フェロー、神戸大学大学院消化器内科 特務准教授、国際医療福祉大学大学院 准教授を経て現職。医用画像解析、XR (VR/AR/MR)、メタバース、手術支援、低侵襲手術、手術ロボット、3Dプリンタ臓器モデルなど、最先端医療技術の研究開発と医工産学官連携に従事。医療関連産業の集積による経済活性化、科学教育、若手人材育成を精力的に行っている。

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