“働き方改革”の真っ最中!四川飯店・陳建太郎シェフが目指す健康的に働く環境とは

シェフ / 陳 建太郎

2023-04-13

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まだ日本になじみのない頃から四川料理を広め、根づかせてきたレストラン「四川飯店」。現在は三代目の陳建太郎氏が、オーナーシェフを務めています。創業者である祖父・建民氏、父である二代目オーナーシェフの建一氏から受け継いだ店を、建太郎氏はどのように守り続けているのか。店、そしてそこで働くスタッフに対する思いを語ってもらいました。(聞き手・酒井明子)

料理のこと以外にも経営者として頭をフル回転させる毎日が楽しい、と語る建太郎氏。

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理想は自宅のようにくつろげる店

東京・赤坂をはじめ、全国に5店舗を構える「四川飯店」。昼時になると近隣で働く人たちでにぎわい、順番を待つ人の姿も見えました。現在はテレビ番組『料理の鉄人』でも有名な二代目オーナーシェフの陳建一氏から店を受け継いだ建太郎氏が、代表取締役兼オーナーシェフを務めています。

「祖父と父をはじめ、たくさんの人たちの努力で今の四川飯店ができました。プレッシャーはありますが、それを重荷に感じずに楽しむように心がけています」

そんな建太郎氏が目指す「四川飯店」は、自宅のようにみんながリラックスして、わいわいと楽しめる店だといいます。

「小さい頃に祖父の友人と食卓を囲んだのが楽しかったからでしょうか、店を任されるようになってからも、ずっとお客様にもご自宅と変わらずリラックスしてにぎやかに過ごして欲しいと考えています。四川飯店にいらっしゃる理由は人それぞれですが、四川料理が食べたいだけでなく、スタッフに会いたいとかどんな理由でも結構です。行きたいと思ったときに、気軽に来ていただける。そして楽しいひとときを過ごせる。すべての店舗でそのような空間をつくりだし、楽しく食事ができるように、心がけています」

量より質を目指す“働き方改革”

店作りの中で建太郎氏が現在、最も力を入れているのが“スタッフの働き方改革”です。以前は「料理人は生涯修行」、「寝る間も惜しんで働く」という、料理人ならではの厳しい働き方が求められる時代もありました。しかし生き方、働き方、思考が多様化する現在です。おいしい料理を提供するという信念は変わっていませんが、建太郎氏は働き方を変えていく必要はあると感じています。

「うちの店では労働時間はきっちり1日8時間にして、自分や家族のための時間や、休息をしっかりととってもらうようにしています。仕事はもちろん大切ですが、人生はそれがすべてではありません。仕事以外の時間も充実させることで、心身が健康な状態で働くことができる。結果的にそれが店を良くすることにもつながるはずです。そして、この考え方が普通になるように、すべての店舗でスタッフの意識改革を行っています」

スタッフには与えられた時間の中で、最大限できる範囲のことをやってもらうようにと常々、話をしているといいます。時間がないからと手を抜くことはなく、時間が限られている分は身につけてきた技術でカバーしているそうです。

そして建太郎氏が大事にしているのがまかないの時間です。これはスタッフとの信頼関係を深めることにもつながっているそうです。四川飯店では朝食のまかないは入ったばかりのスタッフが余った食材を使うなどフードロス削減を意識したメニューをつくり、昼食は少し上のスタッフが中国料理以外のメニューを、夜はもうすぐデビューするスタッフが中国料理を作るというのが四川飯店のまかないシステムです。

「食に携わる人間にとって、まかないは大切な勉強のチャンスです。食のバランス、そして食べる人の健康を考えさせるいい機会になっています。また皆一緒に食べることでコミュニケーションが取れて、楽しい時間を過ごす機会にもなります。ウチのまかないは信頼関係が生まれる場になっていますよ」

建太郎氏をはじめ多くのスタッフが働く厨房は、きちんときれいに整理されていて、誰もが使いやすいように考えられている。

美味しさを決めるのは料理への愛

祖父、父と受け継がれ、そして建太郎氏自身が「大好きなんです」という四川飯店を守っていくために、一番大切にしていることは、料理への愛です。建太郎氏は「どんなに忙しくても、自分にとって大切な人が料理を食べると思って作り、提供しなさい」ということをスタッフに常日頃から言い聞かせているそうです。この教えは父・建一氏から教わったものなのでしょうか?

「特に言われたことはありませんが、父がいつもそういう姿勢だったからでしょうか。私にとっては小さな頃から当たり前のことでした。だからスタッフにも指導によって意識するのではなく、自然にそう思えるようになって欲しい。チームとして全員でそれを共有しながら日々、御料理を提供していきたいですね」

四川飯店の入社式では「料理は愛」ということを伝えるために”コント”も披露されるそうです。笑顔で調理するA飯店の建一氏と、ムスッとした顔で調理するB飯店の建太郎氏。それを見た新入社員に、「どちらの料理が美味しいそうに見えますか?」と問うそうです。もちろん答えは決まっています。同じ料理でも、笑顔で愛を込めて作った料理の方が美味しいということを伝えています。

「でも、いつも父が笑顔で良い役をやって、私の方が悪いシェフ役なのが納得いかないんです。これもそろそろ交代してくれないかな、といつも思っているんですけどね(笑)」

インタビュー中も冗談を交えながら、常に笑顔の建太郎氏は、「楽しい」、「美味しい」と言ってまた来てくれるお客様の姿が、なによりもやりがいになるそうです。三代目として自然な振る舞いの中に見せるスタッフやお客様への気配りや愛情が、繁盛店として長く続く秘訣なのかもしれません。

Text/Akiko Sakai Photos/Kazuya Furaku

レストランデータ

店名/四川飯店 赤坂(公式サイト
住所/東京都千代田区平河町2-5-5 全国旅館会館5F・6F
Tel/03-3263-9371
営業時間/ランチ・11:30~15:00(LO 14:00)、ディナー・17:00~22:00(LO 21:00)
定休日/毎週月曜日、年末年始(12/28~1/4)

四川飯店名物の「陳麻婆豆腐」(2000円)は祖父から受け継がれてきた伝統の味。

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この記事を書いた人

シェフ。1979年、東京生まれ。日本に四川料理を広めた四川料理の父・陳建民を祖父に、中華の鉄人・陳建一を父に持つ。「赤坂 四川飯店」に入社後、2005年に四川省成都市の「菜根香」にて、本場の四川料理を学ぶ。帰国後は「赤坂 四川飯店」に勤務する傍ら、「四川飯店」三代目として、メディアやイベント出演など幅広く活動している。2014年、シンガポールに初の海外店舗 「Shisen Hanten by Chen Kentaro」を出店。2016年から連続で、シンガポール版ミシュランガイド2つ星を獲得。

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